から海とは逆方向に自転車を走らせれば、そこには山があり、祖母と伯父が住む家があり、長い階段があり、その先にはあじさいの咲く寺がある。寺からは連ヶ浜の町が一望できる。真歩がまだ小さいころ、一緒に寺までの階段を上ったことがあった。確かあのときも初夏だったと思う。Tシャツが背中にはりつくまで汗をかきながら、光彦は真歩と手を繫いでいた。そして、この町で一番高いところに立った真歩は言った。 カレーライスみたい。 そのころから真歩は写真を撮るのが好きだったかもしれない。目の前に広がる景色を四角く切り取ってしまえば、こちらへ寄せてくる海と、白い家がたくさん並んでいる陸がちょうど半分ずつくらいに見える。海がカレーで、陸がライス。「じゃあ、シーフードカレーだな」という光彦のボケを、真歩は無視した。ガキに無視される俺って……と一人むなしくなったことを、光彦は今でも忘れてやらない